長時間労働が疑われる事業場の66.2%で法令違反

昨年末に、厚生労働省より「『過労死等ゼロ』緊急対策」が出され、その中で、違法な長時間労働を許さない取組みの強化が盛り込まれています。これに関連して、厚生労働省から長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導の結果が公表されましたので、今回はその内容をとり上げましょう。

1.監督指導の対象となった事業場
この調査結果は、平成28年4月から9月までに、長時間労働が疑われる事業場に対し、労働基準監督署が行った監督指導の実施結果が取りまとめられたものです。この監督指導は、1ヶ月当たり80時間を超える残業が行われた疑いのある事業場や、長時間労働による過労死などに関する労災請求があった事業場が対象とされています。以前は1ヶ月当たり100時間を超える残業が行われた疑いのある事業場が対象となっていましたが、平成28年度よりこの時間数が80時間に下がり、監督指導の対象が拡大しています。

2.法令違反があった事業場数とその内容
今回の調査において、監督指導が実施された事業場は10,059事業場であり、そのうち、6,659事業場(全体の66.2%)で労働基準法などの法令違反が見られたという結果になりました。その主な違反内容としては以下のものがあります。

・違法な時間外・休日労働があったもの:4,416事業場(43.9%)
・賃金不払残業があったもの:637事業場(6.3%)
・過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの:1,043事業場(10.4%)

そして、違法な時間外・休日労働があったもののうち、時間外・休日労働の実績がもっとも長い労働者の時間数が1ヶ月あたり80時間を超える事業場は3,450事業場となり、是正勧告書が交付された割合が78.1%となりました。

3.監督指導事例
今回の実施結果の中には3つの監督指導事例が挙げられており、問題点の把握に役立ちます。そこで以下では情報処理サービス業の例を一つとり上げましょう。

[監督指導において把握した事実a]

脳・心臓疾患を発症させた労働者について、36協定で定める上限時間(特別条項:月80時間)を超えて発症前の直近6ヶ月平均で月92時間の違法な時間外労働を行わせるとともに、この労働者以外の21名の労働者についても、36協定で定める上限時間を上回る月100時間を超える違法な時間外労働を行わせていた。違法な時間外労働は、もっとも長い労働者で月約200時間となっていた。

[事実aへの労働基準監督署の対応]

(1)労働基準法第32条(労働時間)違反を是正勧告
(2)36協定の不適切な運用について原因を分析し、適切な運用を図るための具体的な再発防止対策を検討するよう指導
(3)月80時間以内への削減について専用指導文書により指導
(4)過重労働による健康障害防止について専用指導文書により指導

[監督指導において把握した事実b]

常時50名以上の労働者を使用しているにもかかわらず、長時間労働による健康障害防止対策等についての調査審議を行う衛生委員会を設置していなかった。

[事実bへの労働基準監督署の対応]

・労働安全衛生法第18条(衛生委員会)違反を是正勧告

厚生労働省では、1ヶ月当たり80時間を超える残業が行われた疑いのある事業場などに対する監督指導の徹底をはじめ、長時間労働の是正に向けた取組を積極的に行うとしています。企業としては適正に実態を把握するとともに、長時間労働の改善に向けた取組が求められています。

■参考リンク
厚生労働省 「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果を公表します」http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000148739.html

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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