労基署是正指導により支払われた割増賃金支払額は過去10年間で最低水準に

昨年末に、厚生労働省より「監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成27年度)」が公表されました。これは、平成27年4月から平成28年3月までの間に労働基準監督署等による定期監督および申告に基づく監督等により、残業に対する割増賃金が不払になっているとして是正指導されたもののうち、その支払額が1企業当たり合計100万円以上となった事案をまとめたものです。その結果は、以下のようになっています。

1.是正企業数等の概況

・是正企業数:1,348企業(前年度比19企業の増加)
・対象労働者数:9万2,712人 (同11万795人の減少)
・支払われた割増賃金の合計額:99億9,423万円 (同42億5,153万円の減少)
・支払われた割増賃金の平均額:1企業当たり741万円、労働者1人当たり11万円
※是正の対象となった企業のうち、1,000万円以上支払った企業数は184企業

今回、是正企業数は前年より増加しましたが、対象労働者数、支払われた割増賃金の合計額は前年よりも大幅に減少しています。また、1企業での最高支払額は1億3,739万円(金融業)となっており、1億1,368万円(その他の事業(協同組合))、9,009万円 (電気機械器具製造業) と続いています。

2.労働基準監督署の監督指導事例
厚生労働省より「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」(以下、「指針」という)が出されており、労働基準監督署はこれに基づいて監督指導を実施しています。今回の対象となった企業に対しても、この指針に基づいた取組が行われているので、以下では労働(残業)時間の申告時刻とパソコンのログオフ記録や電子メールの送受信履歴との乖離があるケースをみておきましょう。

[賃金不払残業の状況]
会社は、「出勤簿」と労働者が事前申請を行う「時間外勤務申請書」に基づき労働時間を把握していたが、パソコンのログオフ記録や電子メールの送受信履歴から、時間外勤務が正しく申請されていない疑いが認められた。
[労基署の指導内容]
割増賃金を適切に支払っていないことについて是正勧告を行った。また、労働時間を適正に把握すること、労働時間について実態調査を行い、不足額を支払うことについて指導した。
[企業が実施した解消策]
労働者から聞き取り調査を行った結果、賃金不払残業が認められたことから、不払となっていた15ヶ月間の割増賃金(約830名分、約71,000時間分)を支払った。また、①自己申告制による時間管理を廃止し、タイムカードを導入、②企業トップ自ら賃金不払残業が生じた原因を労働者にヒアリングし、賃金不払残業撲滅に向けた取組を説明、③総務部門による定期的な職場巡視によるチェック体制の構築などの改善策を講じた。

今回のケースにように、労働時間を客観的な記録ではなく従業員に申告させている企業は少なくないでしょう。自己申告制の場合、上記の指針の中で、申告された労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、企業は必要に応じて実態調査を実施することとされています。そのため、残業が正しく申請されているかチェックを行うなどの対策も求められています。

■参考リンク
厚生労働省 「平成27年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果を公表します」http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000146857.html

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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